日本語・日本文化学類とは?
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韓国における共生社会の実現に向けた多文化教育の役割

金 京姫(韓国外国語大学校大学院 グローバル文化コンテンツ学科)

1.はじめに

韓国は、急速な少子高齢化が早いスピードで進んでいる一方で、2019年末国内における在留外国人数は、240万人を越えて韓国国内人口の4.6%を占めている[1]。韓国においても日本同様、少子高齢化が大きな社会問題となり、様々な業界で労働力不足の問題が台頭している。その中で、社会的イシューとして「多文化」という言葉やそれをとりまく議論がよく登場している。多文化主義とは何か、多文化社会とはどんな社会を指しているのかが問われている。多くは、多様な文化的背景をもつ人たちが地域社会の構成員として共に生きていく社会だという定義が答えとして出される。すなわち、私たちが生きている社会が多文化社会であれば、われわれも、皆、そのなかの構成員になるわけだ。しかし、実際に、「多文化」や「多文化家庭」「多文化児童」が使われるところでは、もともとの多文化主義の真の意味で使われているとは言いがたい。むしろ差別の用語として使われるのを時々見かける。

特に、ここで注目されるのは「多文化家族」という言葉である。これは、韓国においてはもともと華僑の家族、脱北者家族、移住労働者家族を含む用語として市民団体等により使用されてきた言葉である。少なくとも韓国社会においては、多文化社会だと言いながら、国籍や民族などの異なる人が、互いの文化的な違いを認めながら共に生きていく社会の構成員として、みんなが多文化だという認識には至っていないのが現状である。しかも、多文化じゃない方は、自分は単一民族だとか、自分は単一文化的背景を持っていると思っている傾向が強い。そうであれば、この「多文化」は、差別の意味で使われているかもしれない。しかし、社会に主流派がいて、またそこに入ってきた非主流派がいる、すなわち、ある社会のマイノリティがマジョリティに受け入れられて、ケアしてもらい、管理してもらうことを意味するものではないし、そういう意味になってはいけないのである。

このような多文化についての間違った見方や認識を改善するためには、多様な文化や人種、民族、言語などに対する教育が必要である。多文化教育は、単に外国につながりを持つ子どもへの韓国語教育の支援や韓国文化教育の機会を提供することにとどまってはならず、文化の多様性を尊重する教育が行われなければならないのである。そのような共生社会の実現に向けた教育とはどんなものでなければならないのか。本発表では、韓国における多文化教育の現況を概観し、ソウル大林洞朝鮮族タウンに位置した大東(テドン)小学校の事例を取り上げることにより、多文化共生社会を実現していく上での課題とは何かを提起してみる。

[1] 韓国法務部出入国·外国人政策本部統計月報、2019.12.20.p.3

2.韓国における多文化教育の現況

韓国における在留外国人数は2013年の157.6万人から2019年には243万人まで増加した。在留外国人の国籍別統計を見ると、中国国籍者が44.5%を占める。これには、韓国をルーツに持っている朝鮮族も含まれている。このような背景の中、韓国社会における多文化受容力に関しては、世界価値観調査協会(World Values Survey Association)が2010年から2014年まで実施した第6回「世界価値観調査(World Values Survey)」[2] によると、韓国人の外国人労働者に対する受容力は、全体の59カ国のうち、51位に止まっている。また、2018年韓国女性家族部が実施した「多文化受容力調査」では、韓国社会の多文化受容力が52.81点だったということで、3年前の2015年度の53.95点からも下がっている。

また、最近の記事[3] によると、外国人留学生が国内の大学で初めて学生会長に当選したことで話題になった事例がある。韓国の浦項工科大学大学院で、学生会長に当選したサルカル氏が主人公である。しかし、インタビューの内容には苦い経験談が語られている。彼は、インタビューで、以前は皆に親切にしてもらったのに、学生会長に当選した時から差別が始まったという。「なぜ平和なキャンパスに混乱を起こすのか」「韓国より貧しい途上国のインド人のくせに、あなたの国へ帰れ」などの人種差別的な言葉を言われた。インタビューの最後で、彼は、韓国人、外国人である前に、皆、浦項工科大学の大学院生だ、国籍は重要なものではないと言いながら学生会長としての抱負を述べている。

この記事から韓国社会における多文化への一般的認識が見受けられる。他者に対する排除行為、つまり、異質なものに対する排除意識が未だに根強く存在する。上記で述べたように、このような見方や認識の改善のために、多文化教育が必要である。ところで、多文化教育が一番深刻な問題となっている教育機関は初等学校(小学校)である。韓国の教育部の調査資料によれば、韓国全体の学齢人口はここ5年間減少し続けているが、多文化家庭児童の場合は、持続的に増加している。とくに、小学校の多文化化が急速に進んでいるのがわかる。

[2] 世界価値観調査は、世界のおよそ100カ国の研究機関が参加して実施している国際プロジェクトで、世界価値観調査協会(WVSA)という非政府・非営利の研究機関が実施・運営主体となっている。原則同一の調査票にもとづき各国・地域ごとに、18歳以上男女1,000サンプル程度の回収を基本とした個人対象の意識調査であり、対象分野は政治観、経済観、労働観、教育観、宗教観、家族観など約90項目190問という広範囲に及ぶ。

[3] 朝鮮日報 2019.04.27

3.ソウルの南西部大林洞朝鮮族タウン、テドン小学校の事例

ソウルの南西部の大林洞(テリンドン)は朝鮮族タウンと呼ばれる朝鮮族密集地域である。この地域に所在するテドン小学校の事例を見ていく。テドン小学校の場合、2019年9月調査では、全体在学生435名のうち、多文化家庭の児童生徒が321名で、多文化比率が全校生徒数の73.8%を占めている。多文化比率としては、ソウル市では1位、全国では、2位である。テドン小学校が抱えている問題としては、①中国籍外国人児童生徒や中途入国生徒の増加傾向による韓国語でのコミュニケーションの難しさ ②学力低下および基礎学力の欠損に伴う教科指導の難しさ ③韓国文化や背景知識の不足およびひとり親家庭による生活指導の難しさ ④少数の韓国人児童が受ける逆差別の問題および情緒的疎外感の発生、⑤過重な業務による疲労の蓄積及び周辺の劣悪な教育環境などが挙げられている。これに従い、学校の教育力を強化するための構成員たちによる意見交換会が持たれた。その中での主な意見としては、①質の高い理解を図るための教育課程を柔軟に編成すること ②二重言語の指導や基礎学力の強化 ③全児童生徒を対象とした多文化共生教育の実施 ④全ての生徒がともに参加する体験活動を増やすことなどが出されている。

4.テドン小学校の取り組み

テドン小学校が抱えている問題を解決するために取り組んでいることについて、インタビュー調査を行った。現地調査とインタビュー内容に基づき、その取り組みについて簡潔に紹介する。大きくは、韓国語特別学級の運営や二重言語教育、基礎学力の補充的指導、カウンセリングの強化による生活指導、みんなが一つになるふれあい(어울림 교육)の教育に力を入れている。まず、二重言語教育には、次のような三つのモデルがある。①「一般教科中心のCo-Teaching」は、通常授業の流れの中で、教科担当教員と二重言語講師が協力して学習をサポートする韓国語特別学級である。②「創造的体験活動中心のCo-Teaching」では、全校生徒を対象として、多文化言語講師と二重言語講師が連携して中国語の授業を行う。③「二重言語基盤の放課後の学習教室」などである。特に、②の場合は、テドン小学校が2019年3月から全校生徒を対象とした中国語の授業を実施していることである。子供たちが皆で中国語を学ぶことで、中国語が話せるようになる効果がある以上に、韓国語が上手い子供が外国語を学ぶことに対する難しさを実感するようになり、反対には、中国につながりのある子供たちの場合は自信を取り戻すことにもなったという。このような教育を通して、それぞれが徐々に文化や言語の多様性を理解するようになるのであろう。

また、みんなが一つになるふれあいの教育として、グローバル・メンタリング&クラブ活動を行っている。2019年3月から韓国外国語大学国際学部と業務協定(MOU)を締結し、大学生たちが児童生徒のクラブ活動を指導している。韓国外大国際学部の黃載皓教授は、「Volunteer Service」という科目を開設して必須科目として指定し、テドン小学校との協定により、大学生たちが事前に指導計画書を作成し、学級担当教員との協議を通じて、Co-Teaching 授業を実施している。実際に韓国外大国際学部には、授業が英語で行われる学科の特性から外国人学生が多く、韓国人学生であっても母国語よりは英語の方が話しやすい学生がいるなど、多様な文化的背景を持っている学生が多い。グローバル・メンタリング&クラブ活動を行ったことで、テドン小学校の子供たちが大学生の兄や姉たちと接することにより将来の夢を抱け、韓国外大国際学部の学生たちにおいては、人性教育(Character education)になり、自分のアイデンティティを見つけるきっかけにもなった。

5.おわりにかえて

上記のことから、テドン小学校の取り組みから、韓国社会における多文化教育の在り方について考えてみた。2006年のユネスコ世界宣言では、文化的多様性を人類共通の遺産と規定している。文化的多様性を増大させるためには、互いの違いを受け入れ、本来の多様性を理解し認める多文化主義への転換が先行しなければならないであろう。韓国人も外国人も、地域社会を構成する一員であり、地域社会を支える主体としての認識を持つことが重要である。受動的な共存・共生を超えて、多様な文化間の理解、尊重、対話の創出を通じ、共に生きる持続可能な多文化社会を実現することを期待する。

【参考文献】

  • 川那部和恵(2006)「異文化理解教育における実践的アプローチの可能性」『奈良教育大学教育実践総合センター研究紀要』15、pp. 53-60
  • 金兌恩(2018)「韓国の多文化化と中国朝鮮族」『応用社会学研究』60、pp.227-239
  • 元眞淑(2018)「多文化教育と二重言語教育の必要性」韓国語文教育研究所学術大会論文集
  • 張漢業(2015)「ユネスコにおける教育的観点の変化研究」『教育の理論と実践』20、pp.113-131
  • 宮島喬(2009)「「多文化共生」の問題と課題─日本と西欧を視野に─」『学術の動向』14(12)、 日本学術会議、pp.10-19
  • UNESCO(2006).UNESCO Guidelines on Intercultural Education.
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