日本語・日本文化学類とは?
What is "Nichi-Nichi"?

日本国内の日本語指導を必要とする児童・生徒への学校教育 -高校での実践・研究を中心に-

坂井 香澄(筑波大学大学院 人文社会科学研究科 文芸・言語専攻)

1.はじめに

文部科学省の調査によると、平成28年5月1日現在、公立の小学校、中学校、高校、中等教育学校及び特別支援学校に在籍している日本語指導を必要とする児童・生徒(以下、JSL児童・生徒)は43,947人で、過去10年の間に17,666人増加している。本稿では、関東地方の小学校、中学校、高校において筆者が行った日本語支援の実践を報告し、その上でJSL児童・生徒をサポートする支援者に必要な資質・能力とは何かを明らかにする。

2.日本語支援の実践報告

筆者はこれまでに小学校、中学校、高校において日本語支援員として活動を行ってきた。それぞれの現場では、支援者として求められるはたらきが異なっていた。

  1. 小学校での実践

    小学校では算数の授業で入り込み指導を行った。入り込み指導では、支援を行う児童の隣に座り、児童の様子をよく観察しながら、困っていることはないか、その困りは何から生じているのか、そして今必要なサポートは何かを考え行動することを心がけた。小学校の算数の授業では、導入の場面では折り紙やブロック、おはじきといった実際のものを動かしながら授業が行われたため、JSL児童もつまずくことはなかった。しかしその導入後、確認として日本語の文章を自分で読みながら解く問題では、その文章の意味が理解できず独力では回答することができていなかった。筆者が文章題の日本語をやさしい日本語に言い換え、さらに理解を助けるためのイラストを描いて説明したところ、正答を導くことができていた。JSL児童が独力で文章題に取り組めるようになるためには、文章構造の解説、その文章題に登場する語彙の理解が必要となる。算数の授業のように一人で問題に取り組む時間が授業の中で確保されている場合には、その時間に個別に対応することが可能であるが、主教師の授業の進行中にサポートを行わざるを得ない授業の場合、児童はサポート中になされる主教員の説明を聞き逃してしまうことになり、サポートがJSL児童自身の教育の機会を奪うことになりかねない。そのため、授業でよく使われる基本的な語彙や文法の理解ができるまでは取り出し指導を行い、ある程度理解ができるようになってから入り込み指導に移行し、徐々に支援の量を減らしていくのがよいと考える。
  2. 中学校での実践

    中学校では、日本語を第二言語として学びたいと考えている留学生と、日本語が母語ではあるが海外在住期間が長く、海外では現地校やインターナショナルスクールに通学していたため、日常生活では使わない学習言語としての日本語に特に困難を抱えている帰国生の生徒達に支援を行った。

    留学生の場合、日本文化を知りたい、日本にいる間は日本語を話して友達とコミュニケーションをとりたいという動機を持ち、短期(3か月や1年など)の留学の後は国に帰るという生徒であったため、生徒の生活に根差し、生徒の興味を掻き立てられるような内容を考えた。担当する日本語の授業の目標は「日本文化を知りながら、実際に学校生活・寮生活で使える日本語が話せるようになる」こととした。例えば日本文化の理解を深めるために、日本文化を紹介する映像を視聴し、その後にグループでその内容について出身国の事情と比較しながら意見交換をする活動や、自分の国のおすすめしたいものというテーマで他の生徒にどんな話をしたいか考え、それをスライドにまとめて発表するなどの活動を行った。

    また、帰国生の場合、多くは中学校在籍中(あるいは高校卒業まで)は日本に滞在予定で、大学も日本の大学に進学する可能性があるということから、国語や数学などの教科の内容も十分に理解できるようになりたいという希望があった。帰国生は学習言語にあたる日本語運用能力や知識が十分でないことに加え、国によってその学年で学ぶ単元の内容が異なっているなどの理由から、課題に取り組むために必要な前提知識がない可能性が考えられる。そうした際に支援者は、生徒が目の前の課題ができないことが単にその課題だけの問題であるのか、それともその課題に取り組む前の段階でつまずいているのかを判断し、支援にあたる必要がある。さらに帰国生の中には、それまでにいた環境とは全く異なる日本の学校文化の中でうまく学校生活になじめず、精神的につらい思いをしている生徒も少なくない。こうした文化適応の困難さや交友関係での過ごしにくさなど、教科内容以外の部分で困難さを抱えている場合もある。そのため、支援者としては教科教育内容を教え込むという姿勢ではなく、その生徒自身が学習や生活、交友関係すべてにおいて何に困っているのか寄り添う姿勢が求められる。支援者本人が生徒の相談に乗るだけではなく、生徒自身が「この人になら話してもいいと感じられる人」に繋ぐ役目を担うことも考えられる。生徒との信頼関係を築き、生徒の困り感を少しでも解消できるよう動くことが支援者には求められる。
  3. 高校での実践

    高校では、日本語初級~上級のJSL生徒に対し、入り込み支援、取り出し支援、放課後の補習支援を行った。支援を行った学校では、JSL生徒は正規生であるため科目の成績がつけられ、基準に満たない場合には留年の可能性もあった。そのため学校生活で必要な生活言語としての日本語の支援と、授業を理解できるようになるための学習言語としての日本語の支援の両者が必要であった。初級の段階では、集中的に総合的な日本語を学び、初級終了程度から教科の支援に移行した。教科の支援では、化学や家庭科のレポート執筆のサポートや、課題研究の授業の資料収集、資料読解のサポートを行った。支援にあたって特に心がけていたことは、JSL生徒の既存の知識と今目の前にある課題とをいかに結び付け、そこでどのように日本語の語彙や漢字の学習を盛り込んでいけるかという点であった。語彙や漢字の学習も、自分に必要だと思った内容、実際に使った内容については記憶に定着しやすくなる。しかも、科目中に使用する語彙や漢字、文法や文のスタイルなどは、何度も同じようなものが登場し、以前に使用した表現が再び登場するといった状況が出てくる。そうした時には簡単に答えを示すのではなく、前回はどのような状況で登場し、その際どのような話をしたか、と生徒と支援者の活動を想起させるような問いかけを行い、自分の力で思い出すことができるよう心がけた。どうしても思い出せない場合には、その時のノートから独力で答えを探し出すよう促し、それでもわからない場合には辞書やインターネットを使って自分で調べるよう促した。支援者はJSL生徒のそばに常にいられる訳ではないため、生徒自身が一人でも課題を解決できるようサポートをする役目を担うことが不可欠であると考える。そのため、教科の内容を単に教え込むだけではなく、わからない時にどうすればいいのかというストラテジートレーニングを行うことも重要である。高校生の場合、その後の進路についてどう考えているのか希望を聞きつつ、それが実現できるように、他の教員とも生徒の情報を共有し合い、包括的にサポートを行っていく必要がある。

3.JSL児童・生徒を支援する支援者に必要な資質・能力とは何か

  1. 高校での実践

    JSL児童・生徒の滞在長期化を考えると、今後高校に進学するJSL生徒も全国で増加するものと考えられ、そうした生徒支援を担う人材の育成が急務であるといえる。しかしながら、平成29年文化審議会国語分科会日本語教育小委員会「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)」では、分野に応じて求められる資質・能力が整理されていないため養成・研修が適切に実施できていないと指摘しされている。そのため、JSL児童・生徒に関わる支援者に必要な資質・能力は何かを検討する必要があると考え、比較的国のサポート等が充実してきた義務教育段階にあたらない高校に焦点を絞り調査を行った。
  2. 方法論

    本研究ではPAC(Personal Attitude Construct)分析と半構造化インタビュー、高校に在籍するJSL高校生が使用する学習補助教材を作成する授業を受講した大学生の授業内省レポートからデータを得て分析を行った。PAC分析とは、個人別態度構造を測定するために内藤哲雄氏によって開発された技法である。PAC分析では、協力者が調査者から提示された刺激文から自由に連想した項目を書き出し、比較を行う。PAC分析は協力者による内省報告がクラスター構造という刺激によりコントロールされ、再現性が高く安定的である(丸山・小澤2007)ため、協力者が主体となり自由な発言がしやすいと同時に客観性・再現性が高い研究手法であるといえる。さらに同一の刺激文に対する複数名の反応を比較することで、個だけに留まらない集団に対する考察も可能となる。そこで本研究では、属性の異なる複数の協力者に対しPAC分析を行い、その結果を比較することで、求められる資質・能力の全体像について考察する。今回はA、B、C高校の現職の教員7名と、大学生5名に対しPAC分析を行った。
  3. 結果・考察

    PAC分析の自由連想項目で得られた回答に、臼井(2011)で示された分類を参考に①日本語指導、②教科指導、③コミュニケーション、④文化的相違、⑤メンタルサポート、⑥子ども同士の関係形成、⑦指導体制、⑧教員一般に必要な力、⑨その他、に回答を分類し、図1のように整理した。図1の点線は緩やかな繋がりがみられたもの、実線は強いつながりがみられたものである。

    JSL生徒支援者に求められる資質・能力は広く教員一般に必要な力によって束ねられ、主に「知識・技能」、「心のケア」、「環境づくり」に分けて発揮される。
    それぞれは互いにゆるやかな繋がりをもち、特に個別の支援時に発揮されるコミュニケーション力、メンタルサポート力、文化的相違に対する理解は強い関係性が読み取れた。また、指導体制づくりに向けた力と、異論に負けない等といったその他に分類される力も強いつながりを見せ、JSL生徒支援者自身もマイノリティとして孤立しがちであるという社会的な立場をうかがい知ることができた。
    また、教員、学生ともに関わる立場を問わず、JSL生徒支援者に求められる資質・能力に対する回答はおおむね一致していたが、日本語支援担当教員、クラス担任といったJSL生徒に個人的な関わりをもちやすい教員は、直接的な日本語支援の方法やメンタルサポート、学校全体を巻き込んだ支援体制にも目を向けている点が特徴的であった。それに対して、クラス場面でJSL生徒と関わる教科担任は教科内容の教授法に目を向けている。そして日本語支援担当であるものの非常勤講師として勤務している教員は、その立場上、マイノリティとして活動せざるを得ない状況から逆境の中でも支援を継続できる力強さを重視していることがわかった。

    また、今回調査を行った大学生は、JSL生徒に直接支援をすることはなかったが、JSL生徒とテレビ会議で顔を見ながら交流したり、教材について「ここが使いやすかった」、「使いにくかった」というフィードバックを得るなど間接的に関わりを続けていった。その結果、教材を通した間接的な関わりであっても、大学生は現職教員が重視する「教員一般に必要な力」や「生徒個人に寄り添う姿勢」が重要であると認識していた。このことから教員養成の一部として教材作成活動が有効ではないかと示唆を得た。

4.おわりに

今回協力者から得られた回答は、研究者に対して開示された内容であり、これらが高校段階におけるJSL生徒支援者に必要な資質・能力を網羅的に示しているわけではない。今後はこの結果を参考にしつつ、より大規模な調査を行うための質問紙の作成を行い、大規模調査を行うことでその信頼性と妥当性を高める必要がある。また、JSL生徒支援者に求められる資質・能力は、どのような教育によって伸長することができるのか実証を重ね、検討を続ける必要があると考える。

【参考文献】


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