アメリカ・パデュー大学(2020年2月) - 日本語・日本文化学類 筑波大学 人文・文化学群

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アメリカ・パデュー大学(2020年2月)

2020/02/21 アメリカ 花見ちひろ

 みなさん、こんにちは。日日2015年卒の花見ちひろと申します。
 前回のレポート では、アメリカの大学院生活や就職活動についてお話ししました。
 今回のレポートでは、大学院卒業後の生活についてお話ししたいと思います。

お寿司作り
写真1:マウントホリヨーク大学2年生のお寿司作り

 私は、パデュー大学大学院を卒業後、マサチューセッツ州にある マウントホリヨーク大学(Mount Holyoke College) でVisiting instructorとして教師生活をスタートしました。
 マウントホリヨーク大学は、1873年創立のアメリカ最古の女子大で、セブンシスターズというアメリカ東部にある名門女子大学七校のうちの一校です。
 サウスハドレーという小さな町にある大学ですが、自然あふれる美しいキャンパスで、伝統的なリベラルアーツ教育を維持しながらも、トランスジェンダーの学生を受け入れるなど時代に適応した様々な取り組みも行っており、アメリカにとどまらず、世界78の国から志の高い熱心な学生たちが集まります。
 日本語のプログラムは、中国語、韓国語とともに東アジア言語の1つとして位置づけられています。

ミニピクニック
写真2:ねこ好きの学生を集めてミニピクニック

 私はここで2年間、1年生と2年生のクラスを担当しました。
 それまでティーチング・アシスタントとして教えていた時とは違って、教室で教えるだけではなく、プレイスメントテストを行うところから、シラバスやスケジュール作り、成績の管理などもしければなりません。
 また、大学の職員会議や学科のミーティングに参加したり、提携している大学間での集まりや行事に協力することなども、それまでとは大きく違いました。
 プログラム自体の大きさは、大学院時代より小さくなりましたが、小規模でアットホームなプログラムだからこそ、自由にアイディアを出し、それを実現させられる環境と周りの支援があったことは、本当に恵まれていたと思います。

2019年春1年生と2年生
写真3:マウントホリヨーク大学2019年春1年生と2年生

 学生とお寿司作りをしたり、大学の日本庭園で浴衣を着せたり、かるたや早口言葉大会をしたり、書道をしたり、学生が好きな漫画やドラマを取り入れた授業をしたり、学生のレベルやニーズに合わせて様々なセメスタープロジェクトを企画してみたり。学生の「これがしたい」「あれが知りたい」を通して、私自身が色々なことを発見させてもらうことも多かったです。
 キャンパスでは、家族向けのイベントが行われることもあるため、学生のご家族が日本語の授業を見学されることも多く、
「いつも話に聞いていた日本語の先生やクラスメートに本当に会いたかった」
とはるばる遠くから来てくださった親御さんや、
「目標がなかった娘が、日本語に出会って、やりたいことを見つけた」
と私の手を握って話してくれたお母さんもいました。
 学生は、学生自身の人生の方向性を左右する貴重な時間とお金をかけて授業をとっています。そういった意味での責任もあるのだということを改めて感じました。
 2年間だけではありましたが、とても近い距離で学生たちの日本語の上達と人間的な成長を見ることができ、私も成長させてもらいました。
 最後の学期に、私が2年間で関わった学生たちが集まってサプライズのお別れ会を開いてくれた時は、涙が止まりませんでした。学生に「教えた」ことよりも、学生から「教わった」ことの方が遥かに多かった2年間。
 初めての職場でこのような時間が過ごせたことを、とても幸せに思います。

函館の海
写真4:HIFの学生と晴れた日に函館の海が見える坂道で

 大学の外でも、新しい経験がたくさんありました。私は、大学がお休みになる夏の間(アメリカの大学の夏休みは三ヶ月ほどあります)も経験を積むため、これまで、米国ミドルベリー大学、CIEE Tokyo、北海道国際交流センター(以下HIF)の夏期集中講座で教壇に立たせていただきました。
 ここでは、2019年夏にお世話になったHIFでの経験をシェアしたいと思います。
 北海道の函館にあるHIFの夏期集中講座には、海外の大学で日本語を勉強している学生たちが集まります。学生は、約2ヶ月、函館や函館近郊の町にホストファミリーと住みながら、毎日3時間の日本語の授業、剣道や日本舞踊など様々な文化体験、学生が自身で課題を設定し主体的に取り組む自由研究、スピーチコンテストや地域のお祭りなどの行事を通して、日本語や日本文化に対する理解を深めます。
 夏の集中講座は、どのプログラムもかなり速いスピードで進みます。

お別れパーティ
写真5:HIFの学生とお別れパーティにて

 例えば、HIFでは、通常なら1年でカバーする内容を2ヶ月で終わらせるので、学生たちはもちろん、それをサポートする教師側もそれだけの技量と体力と忍耐力が求められます。
 大変なことばかりのように聞こえるかもしれませんが、楽しい時も辛い時も共に乗り越えることで、講座の終わりには、日本語の上達だけでなく、留学後のキャリアアップや人間的な成長、ホストファミリー、学生、教師の間に生まれる絆、そして、言葉では言い表せない達成感があります。
 教師側も、色々な大学で学んでいる学生を色々な大学から来た日本語の先生方と共にサポートすることで、互いに学び合い、吸収できることがたくさんあります。
 国際色豊かな函館の町で、広大な自然と、あたたかい函館の人々と、おいしい食べ物に囲まれて奮闘した2ヶ月は、またひとつ、私の忘れられない経験になりました。

ペンシルバニア大学
写真6:ペンシルバニア大学2019年秋の2年生のクラス

 そして、2019年の秋から、私は、ペンシルバニア州のフィラデルフィアにある ペンシルバニア大学(University of Pennsylvania) での生活をスタートしました。
 ここでは、レクチャラーとして、1年生と2年生のクラスを担当しています。私は、高校生の時から目指していた日本語教師という仕事ができるようになった今、教師としても人間としても成長し続けることができるこの仕事が、毎日好きになっています。
 私は、外国語を学ぶということは、ただ単語を覚えたり、文法を使って文を作ることだけではなく、その言語が話されている国や地域の人、またその人たちの考え方や文化を知ることだと思います。
 それは同時に、今まで知らなかった新しい世界に向けて自分を開いていくこと、すなわち、自分自身を知ることでもあります。
 学生には、日本語を学ぶことを通して、これからもっと密になっていくであろう多文化共生社会を生きていくための力を養い、それぞれの人生をそれぞれの方法で豊かにしてほしい。
 そのために、私に何ができるのか、毎日試行錯誤しています。


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