日本語・日本文化学類とは?
What is "Nichi-Nichi"?

土浦市における外国人住民との共生-土浦市の外国人労働者の聞き取りを通じて-

古谷 梨菜(筑波大学 人文・文化学群 日本語・日本文化学類)

1.はじめに

筆者は,土浦市国際交流協会が主催する日本語教室で,2019年5月からボランティア活動を行っている。その際,土浦市に工場を有するA社の社員に日本語を教える機会があり,彼らの実態や悩みを調査したいという思いが生まれた。本発表では,二人の労働者に聞き取りを行い,明らかになった彼らの実態の報告と,そこから考える今後の研究の指針について述べていく。

2.A社概要

聞き取りを行った二人の労働者が従事するA社の概要について述べる。A社は,土浦市に工場を構える建設機械製造会社である。土浦市の他にも,つくば市などいくつかの市に,工場を構えており,会社全体で400名以上の外国人労働者を雇用している。そのうち,土浦市には150名ほどが勤務しており,これはA社で最大規模である。その内訳は,約40名の海外支社からの正社員と約110名の技能実習生に分かれる。彼らの他にも,派遣社員が工場に従事しているが,派遣会社が斡旋しているため,A社で人数を把握していないとのことである。本発表では,この中で,正社員に焦点を当てるが,彼らの来日目的は,日本での研修の後に,海外支社でリーダーになるためである。具体的な業務は,生産設備の構築や技術開発,設計などを行っている。在留資格は,企業内転勤であるため,滞日期間は,2年から3年である。

A社の彼らへの支援としては,生活面と日本語コミュニケーションの面に分かれる。生活面では,アパートの契約など来日当初の生活の立ち上げの支援を行っている。それに加えて,日本での生活ルールを教えるなど恒常的な支援が続く。また,地域住民からクレームがあった場合,それに対応している。日本語コミュニケーションの面では,来日当初の日本語学校への斡旋,社内の情報の多言語化を行っている。

3.聞き取りの分析

本節では,聞き取りのデータを示しながら,分析を行う。

  1. ガネッシュさん(仮名)の事例

    まず,ガネッシュさんの聞き取りを分析する。彼の基本データは以下のとおりである。

    ・国籍:インド
    ・性別:男性
    ・年齢:32歳
    ・滞日期間:2017年11月から2020年4月まで
    ・家族:妻,子ども(息子:3歳)家族は2018年2月から来日した。
    ・仕事:エンジニアとして品質保証を行っている。

    生活面に関して会社からサポートがあるのか尋ねると,以下のように語った(以下ガネッシュさんを「ガ」,筆者を「古」とする)。

    ガ:生活面で…あんまりないですね。あの幼稚園の入る時は,ちょっとサポートがあって,あと生活面とか病院とか自分で,インターネットであの,こういう,ん,病気は何を日本語で何を言うのか勉強して。ちょっとこの辺の先生とか医者さんとか英語できないから,ちょっと難しかった。子ども最初来た時寒い。どういう言い方,ちょっと面倒くさい。(中略)
    奥さんは日本語あまりできないから。奥さんが病気になった時も私が行く。ちょっと大変ですね。大きな協同病院あるでしょ?あそこも誰も英語できない。

    彼の家族は,医院で病状をうまく伝えられず,日本語でのコミュニケーションに困難を感じていると考えられる。労働者として来日しているが,家族の悩みも抱えなければならないという現状が見られる。次に,地域の人との交流について質問すると,以下のように語った。

    古:地域の人(神立町)と交流をする機会があれば,行ってみたいですか。
    ガ:行ってみたいですね。会社以外はEnglish Campとか水戸の方で,English Campみたいな感じがありますので。
    古:土浦の人とはどうですか。
    ガ:んーあんまりないですね。会社の人とだけ。

    彼は,休日には,会社の同僚や上司と旅行や遊びに出かけており,家族ぐるみで会社の人々と交流している。それに加えて,近隣住民との交流も求めている様子が見られる。その要因の一つとして考えられる災害について以下のように語った。

    ガ:最近は台風いっぱいあったんですね。台風なったときはあの会社でも色々情報あったと思うんですけど。あの土浦の方で,あのemergency preparednessとかemergencyは例えばどこに行くか。それあんまりあの何がわからなかったんです。あの日本で,地震とか会社からサポートがありますね。何があった場合は会社に電話するとか。英語できる人に電話するとサポートがありますので。この辺でどこに行くのか,困ったときは誰に電話するか,理解できなかった。

    台風などの災害が起きた際に,情報を手に入れることができず,不安に感じていると考えられる。したがって,このような災害の際に,助けを求めるために,近隣住民と交流したいと感じていると考える。

    彼の事例からは,労働者としての悩みの他に,家族帯同であるために,家族の悩みも抱えなければないという問題があると考えられる。しかし,家族がいるため,会社の同僚と家族ぐるみのつながりを築くという効果がある。また,災害との関連性から,会社の同僚以外とも交流を求めたり,病院などの生活上の必要性から日本語学習を行っていたりする様子が見られる。

  2. ディッキーさん(仮名)の事例

    次に,ディッキーさんの聞き取りを分析する。彼の基本データは,以下のとおりである。

    ・国籍:インドネシア
    ・性別:男性
    ・年齢:31歳
    ・滞日期間:2018年10月から2020年10月まで
    ・家族:妻,子ども(息子:4歳,娘:2歳)家族はインドネシアにいる。
    ・仕事:生産において,出荷や注文などの計画を決めて管理している。また,部品の管理も行う。

    彼は,ガネッシュさんとは異なり,家族を日本に連れてきていない。その理由を尋ねると,以下のように語った(ディッキーさんを「デ」とする)。

    古:日本には家族は来ないですか?
    デ:あーない。あのー欲しいけど,でもあのーこの,このー期間は短いから日本に来ない。そして,アパトもアパトの隣にあのえー近所は日本人い,いる時,もしあの子どもは,子どもを持っていくとき,あーなにうるさいから。うるさくなります。

    家族を日本に連れてきたいが,騒音による近隣住民とのトラブルを心配して日本に連れてこられない現状が見られる。

    この騒音に関して,日本でトラブルが起きたようで,それについて以下のように語った。

    デ:困ってることがあった。2019,4月5月―,だからあの,私のアパトは壁が薄い。じゃああの私の近所は,日本人が日本人がいました。そしたら,例えば私はあの壁が薄いから,あの話す私が電話電話した時,この私の近所は聞こえました。そして,うるさいなりました。わたしの近所の考えたのは,これはうるさいうるさくなりました。これは怒る。
    古:ディッキーさんが怒られたんですね?
    デ:外国人は多分同じうるさいけど私は大丈夫と思う。私の考えでは,これはそのままうるさいからこれは多分家族と電話して,これはそのまま。でも日本人は気持ちが違うから,怒ったんです。近所の日本人は怒ったんです。日本人は例えばうるさいがあって,厳しいになります。怖い。昨日も私は,話をしました。あの隣に日本人近所があって,この壁を投げる。
    古:殴った?
    デ:はい。だから,この壁は薄いから。一番困ってることはこれです。それ以外は大丈夫と思います。

    彼は,このトラブルが起きる前にも,コーランを声に出していることで,近隣住民に苦情を言われたことがあったそうである。つまり,彼にとって,近隣住民に騒音で怒られたことは,トラウマ的体験となっている。これによって,うるさくすれば,日本人は必ず怒る,怖い存在であるというイメージを抱いていると考えられる。その経験が,家族を連れてこられない一つの要因になっていると考える。

    このように,近隣の日本人とは良好な関係を築けていないと考えられるが,インドネシア人とは,モスクを通じてコミュニティを形成している様子が観察された。そのモスクの活動について以下のように語った。

    古:どんな人が来ていますか。
    デ:ほとんどはインドネシア人。他の国もあります。パキスタンやバングラデッシュ。
    古:モスクでは何をしますか。
    デ:今,私は,このモスクの代表です。あのモスクは,色々やります。例えば,イスラム教を勉強してお祈りして,それからイスラム教1日に5回お祈りします。知ってるでしょ?これは必ずお祈りします。お祈り以外は,日本語の勉強をします。

    多くのインドネシア人が通うモスクで代表を務め,精力的に活動に励んでいる様子が見られる。休日は,モスクに来ている技能実習生と旅行や遊びに出かけるそうで,会社内ではあまり関わりのない実習生とも,モスクを通じて独自のコミュニティを形成していると考えられる。

    彼の事例からは,日本人が宗教へ理解を示さなかったり,地域住民との関係悪化を恐れたりして,家族帯同を望むが,それをできないという悩みがあると考えられる。しかし,家族がいないことによって,会社外のモスクでの活動に精力的に参加したり,言語学習や日本人や外国人との交流を求めて日本語学習を行ったりしている姿が見られる。

4.おわりに-研究の指針-

聞き取りを行った二人の事例からは,日本で生きていく上で,家族帯同の有無が,良い面,悪い面の両方に働くことが考えられる。そこで,今後の研究では,労働者の家族帯同の決定がどのような要素の影響を受けているのか,また,家族帯同の有無によって,日本社会とのつながり方がどのように異なるのかを明らかにしたい。本調査では,正社員を対象に調査を行ったが,技能実習生や派遣社員への調査も行いたいと考えている。ディッキーさんの事例からは,会社外での独自のコミュニティ形成があると考えられ,このような宗教を媒介としたコミュニティ形成の他にも,コミュニティ形成の方法があることが予想される。正社員,技能実習生,派遣社員のつながりに着目しながら,今後の研究を進めていきたい。


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