日本語・日本文化学類とは?
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カトリックつくば教会における多文化共生の視点

五十嵐 真結(筑波大学 人文・文化学群 日本語・日本文化学類)

1.はじめに

2019年4月に行なわれた入管法改正によって、今後これまでよりも多くの外国人が日本社会に入ってくることが予測されている。そんな中で多様な人々が日本で共生していくためには、よりどころとなるコミュニティが必要である。各地域に根ざし、信仰によって多様な人々を内包する教会には近年外国人が多く通うようになっている。そこで筆者は、教会が多文化共生の場として機能しているのではないかと考えた。ここでは多文化共生の視点から教会を見たときに、教会が人々にとってどのような役割を果たしているのかについて明らかにしたいと思い、調査を行なった。

2.カトリックつくば教会で調査を行なう意義

キリスト教カトリックは、あらゆる宗教の中でも信者数が最も多く全世界に信者が存在するといわれている。たとえ母国を離れ日本で生活していたとしても、信仰のもとで「祈る場」である教会は、様々な国籍の信者が集まる場所となっている。中でもつくばは研究機関や大学の存在により、外国人が多く住む地域とされている。よってカトリックつくば教会で調査を行なうことは、多文化が交わる場所の共生の現状や意識を知ることにつながると考える。

また、日本人にとって教会は宗教というフィルターがあることによってなじみの薄い場所となっている。つくば教会のシスターの言葉に「教会側としても発信の機会が得られにくい」というものがあったが、今回の調査によって宗教になじみのない人にも教会の現状に目を向けてもらう機会を提示することができる。カトリックつくば教会で調査を行なうことは、教会側にとって多文化共生のための取り組みや困難を社会に共有する点で、宗教に関心がない人にとって今後の日本社会のために多文化共生について思考する機会となる点で、意義があると考える。

3.カトリックつくば教会の特徴

  1. カトリックつくば教会の概要

    カトリックつくば教会は、宗教法人カトリックさいたま教区に所属するカトリックの教会である。「つくば市内にもカトリックの教会を」という信者の声を受け、1985年3月、土浦市大町にあるカトリック土浦教会から姉妹教会として独立し、つくば市手代木に教会堂を建てた。

    教会設立の背景には、1980年の筑波研究学園都市の概成がある。この政策により43の移転機関の移転が完了したが、中でも手代木地区は周辺民有地と一体となった比較的大規模で低密度な住宅地として計画された。ここで新住民が多数流入し新たなコミュニティが形成されたためにつくばにも教会の必要性が唱えられ、1985年3月にカトリックつくば教会が設立するに至った。

    さいたま教区は埼玉県、栃木県、群馬県、茨城県の四県が集まった地域を指し、つくば教会はつくば小教区に位置している。つくば小教区は、さいたま教区の中でも外国人が多い小教区である。表1を見ると、在籍信徒数が580人であるのに対し外国語ミサ数が月に5回と他の小教区と比較した中でも実施数が多いといえる。また、表2では各言語のミサに参加するだいたいの人数が示されているが、日本語ミサが約140人であるのに対して、英語ミサが200人、スペイン語のミサが30人と、日本語ミサに参加する人々の割合よりも外国語ミサに参加する人々の割合の方が多いことがわかる。このようにつくば小教区は比較的外国人割合が多いということが言える。

    表1 さいたま教区内の信徒数と一ヶ月あたりの外国語ミサ

    教会名 在籍信徒数(人) 外国語ミサ回数(回)
    水戸 522 7
    常総 179 5
    伊勢崎 271 5
    つくば 580 5
    太田 1,083 5
    川口 1,079 4
    川越 1,711 4

    出典『さいたま教区報』を基に筆者作成

    表2 カトリックつくば教会の言語別主日ミサ概要

    主日ミサの種類 回数 参加人数(人) 備考
    日本語ミサ 月8回 140 土曜日18:00~、日曜日10:30~
    英語ミサ 月4回 200 日曜日8:00~
    スペイン語ミサ 月1回 30 第三日曜日15:00~

    出典 『2018年度教会現勢報告書(小教区)』を基に筆者作成

  2. 活動の特徴

    外国人との交流が特に活発に行なわれているものとして、5つの活動を紹介する。 一つ目にミサである。外国人の割合が多いため、つくば教会では日本語ミサの他に、英語ミサ、スペイン語ミサを行なっている。ミサ全体の運営は、日本人が大多数を占める信徒会によって取り仕切られているが、外国語ミサは国際部と呼ばれる外国人で構成された組織によって行なわれている。日本語ミサにも外国人が参加していたり、外国語ミサにも日本人が参加していたりと、厳密な割合は把握しがたいが、全体として日本人よりも外国人の参加がかなり多いという印象を受ける。ここでは日本人外国人関係なく混じり合いながら、同じ場で祈りを捧げている。二つ目にパーティーである。この場は様々な国籍の人々が料理を持ち寄り交流する場となっている。言葉は違っていても互いにコミュニケーションの方法を見つけ出し交流することで、新たな人と人とのつながりが生まれる場となっている。三つ目に青年会の集まりである。シスターが、主に単身で日本に来ている外国人青年を対象に活動している。聖書の勉強に交えて日本語・日本文化について学んだり、一緒に歌や踊りをしたりすることで、同世代の人々と知り合う機会となっている。四つ目にサマースクールである。このイベントには茨城県内の教会に通う小学生から高校生が毎年60名程参加している。参加者のほとんどが日本人と外国人の子供である所謂ダブルであり、遊びの経験が少ない子どもが多いという特徴がある。ここでは聖書について学ぶことはもちろんだが、彼らにとって遊ぶ経験をたくさん得られるという重要な機会にもなっている。五つ目に教会バザーである。主に国際部が中心となって行なっており、母国の衣服や食べ物などの体験・販売を行なっている。ここでは教会に通う人々にはどのような人がいるのかを知り、交流することで互いを理解する機会となっている。
    これらの活動を中心として、世代も国籍も多様な人々が互いに交流しコミュニティを形成している。

4.シスターから見た外国人と教会

これらの活動を中心として、多くの外国人と関わってきたシスターたちへ聞き取り調査を行なった。聞き取り調査はシスターAとシスターBの二名に行なった。どちらもカトリックつくば教会に三年勤務しており、日本国籍である。シスターAは宗教科の教員としての経験を持ち、シスターBは家庭科の教員としての経験を持っている。二名に共通して、シスターの役割は教会に奉仕する者として様々な人々が生きる土台となるものに出会えるよう手助けをすることであるとしている。またあらゆる人に対して、違いを超えて人間として大切することを心がけて接しているという。

筆者は外国人と教会についてのシスターへの聞き取りから、三つの視点を明らかにした。
一つ目は提供者としての視点である。シスターから外国人に対して現在行なっていることは、積極的に日本の文化や生活習慣を教えることであり、外国人に対して行ないたいことは、日本語を見てあげることであると述べている。このことから、教会を日本語・日本文化の提供の場として捉えているということがわかる。また、交流の機会について「言葉以外でお互いを知り合うことが重要である。壁になるのは言葉だとは思うが、それでも安心できるのは通じ合う何かがあるから。」と述べている。このことから教会での交流によって、文化を越えた本質的な人と人とのつながりを提供したいという考えがうかがえた。さらに、帰国する前にシスターに挨拶をしにきたフィリピン人の言葉に、「いつもは外国人だけど、教会では外国人ではない。日本に来てここに教会があるからよかった。自分の場所があった。もし教会がなかったら、日本の三年間は違ったものになったでしょう。」というものがあったそうだ。この言葉に対してシスターは、「居場所は日本人外国人関係ない問題でもある。それ(居場所)が特に外国人は得られにくい」として、教会を彼らの居場所として積極的に提供しようとする姿勢が見られた。

二つ目は相談者としての視点である。シスターは「基本的に外国人から相談を受ける時間をとっているわけではなく、そこまでゆっくりと話す時間もない。」というように話していた。そんな中でも若年層の外国人を特に気にかけ、青年たちに声をかけるようにしているそうだ。声かけの中では、生活が忙しいということ、お給料のこと、言葉のことなどについて話を聞くことができているという。一方で、青年以上の大人に関しては、同じ国籍の人々の間で話しているようだと述べており、あまり気にかけていない様子が見られた。また、家族で日本に住んでいる外国人に対して、「次に日本に入ってくる外国人を助けられるのは二世の外国人であり、彼らにしかできないことがあるから社会でどのように役立っていくことができるのか教えていく必要がある。」というように述べている。この点に関しても未来を見据えた二世のケアの必要性を述べている。

三つ目に運営者としての視点である。すでに記したように現在カトリックつくば教会に通っている日本人と外国人では外国人の方が多いという状況になっている。しかし日本の教会運営は、いつまでも外国人をお客さん扱いしているという点が指摘されている。外国人が運営側に来てもいいのではないかという意見がある一方で、それを実現させるためには言葉の問題により共通理解の困難が生じる恐れがあるとする声もある。このようにシスターは、運営者として「日本の教会」に対する日本人のホスト意識を問題視している。また、その解決のために「日本人のための共生」と「本当の意味での共生」について考えていくことが教会の存続にも影響してくると述べ、「共生する」環境を教会運営に整備していきたいとしている。

5.シスターから見た外国人と教会

今回の調査ではシスターの視点からの外国人と教会についての考えを、「提供者としての視点」、「相談者としての視点」、「運営者の視点」という三つの視点から分析した。「提供者としての視点」では、日本語・日本文化の提供、人と人とのつながりの提供、居場所の提供の場として教会は機能しうるというということ、「相談者としての視点」では若年層や二世の外国人のケアをサポートしていく役割を担いたいということ、「運営者の視点」では、日本人のホスト意識の問題を挙げ「共生する」ということについて再思考し、その環境を整えていきたいと考えていることがわかった。

また、今回シスターの視点から聞き取りを行なったことにより、教会に関わる様々な層の人々の存在が明らかになった。具体的には教会の中でもマジョリティとなっている外国人やマイノリティとなっている外国人の存在、若年層の外国人や家族で暮らしている外国人の存在、運営に携わっている人々と携わっていない人々の存在などが挙げられる。そしてその層の人々は、多文化が集まる場所としての教会に違った視点を持っていると考えられる。

教会が多文化共生においてどのような役割を果たしているのかを考えていくにあたり、今後は教会における外国人の移動の実態を把握すること、教会に関わる様々な層の人々の多文化共生の視点を調査することが課題となった。

【参考資料・サイト】

  • カトリックさいたま教区(2019)『さいたま教区報』第45号, p.4, さいたま教区広報委員会
  • カトリックつくば教会(2018)『2018年度教会現勢報告書(小教区)』
  • 出入国在留管理庁(2019)「在留外国人統計」
  • つくば市(2018)『統計つくば 平成30年度版』
  • カトリックさいたま教区
  • カトリックつくば教会

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